隙あらばジブリ語り。宮崎駿監督はなるほど稀有な天才と言えるべき人なのでしょう。

隙あらばジブリ語り！

アニメ映画「風の谷のナウシカ」劇中の「ナウシカの父ちゃん」について。

ナウシカの父ちゃんは、風の谷の長ですが、
劇中では序盤からすでに、腐海の毒に侵され、ベッドに寝たきりの病人です。

風の谷にトルメキアの軍勢が侵攻してきた時に、ナウシカ父ちゃんの病室にもトルメキア兵士の群れがなだれ込み、襲撃されます。

その時、ナウシカ父ちゃんは、そばにいたナウシカに隠れているようにと指示をし、
病床に上半身を起こして大剣を構え、
トルメキア兵たちを迎え討ちます。

しかし寝たきりの病人であるナウシカ父ちゃんは、トルメキア兵士たちに刃物でめった刺しにされ、たちまちころされてしまいます。

さて、この時、ナウシカ父ちゃんはなぜ、そばにいたナウシカに隠れていなさいと言い、下がらせたのでしょうか。

その直後のシーンで、父ちゃんが無残にトルメキア兵士たちにころされているのを見たナウシカが、たちまちトルメキア兵士たちを叩きのめし倒します。

そうです、ちょうど襲撃時に、ナウシカという武勇にすぐれた者が近くにいたのですから、
ナウシカに「病室を防衛しろ。父の身を守れ」と、命じれば、父ちゃんはトルメキア兵士たちにころされることはなく
病床にふせったまま、もう少し生き延びられたはずでしょう。

しかしナウシカ父ちゃんは、それをせず
むしろ反対にナウシカに隠れていろと指示をし、ナウシカを下がらせてしまうのです。

ナウシカの父ちゃんは、何を思いそのような行動を選んだのでしょうか。
そもそも最初から、病床から立って歩くこともできないような弱った重病人である父ちゃんが、大剣を構えて準備したって、
いっせいに襲いかかる大勢のトルメキア兵士たちの群れに勝てる見込みなどないのにです。

宮崎駿カントクは、
トルメキア兵士たちに襲撃される直前のナウシカ父ちゃんに、
大剣をまっすぐに構えるポーズをとらせます。

その短いワンシーンの時に、ナウシカ父ちゃんの胸中に去来した思いは、何だったでしょうか。

この出番の短い、そして物語の中では序盤ですぐにしんでしまうチョイ役であるナウシカ父ちゃんに、
このように重厚なドラマをさらりと背負わせることのできる、宮崎駿カントクという人は、
なるほど稀有な天才と言えるべき人なのでしょう。